1st Full Album『(…Across the)Yellow Town, Pink St.』青野による各曲の簡易セルフライナー

1.マイスリースター

今作の中で最も古い楽曲でBathroom Sketchesとしては、オリジナルメンバーの頃より2曲目として制作され、2010年夏頃には原型が完成していました。サビでのコーラスにはオリジナルメンバーのアカイを起用しています。USインディーやシューゲイズリヴァイバルのジャンキーなカラーと80’sインディーのトゥイーポップとのエッセンスをそれぞれ織り交ぜました…つもりです。けたたましいパートとメロディアスなパートが折衷された疾走感のリードシングル的1曲となっているかと。

この曲は基礎のメロディが出来上がった際に、歌詞がどんどん浮かんできました。お互いの関係にギリギリまで挑んだり耽溺したりしがみついたり‥複雑に絡み合う寸前の色んな関係の。。何重にも意味や要素を積み重ねた歌詞がパッと思いつくままに出来上がったことでBathroom Sketchesは結成してすぐに方向性が見えていたように思います。

 

2.カリフォルニアン・ロケット

2ndデモEPである「January Plot e.p.」に未完成の段階でシークレットトラックとして収録した曲。10分程で作った進行の評判が良かったので、これまた30分程度でバンドとしての原型が出来上がったBathroom Sketchesの中でも最も制作にかけた時間の短い曲。エンジニアさんには「パンクとハードロックの折衷の90’sグランジとしてのパンク寄りの感覚を出したい曲です」とオーダー。高校時代からこういったNirvanaやMudhoneyなどのパンク寄りのグランジのオルタナの系譜っぽい感じの曲は手癖のように作ってきたので、良い意味で自分にとってベタだなぁと。笑

歌詞はドイツの有神論的実存主義者、カール・ヤスパースによる哲学用語を盛り込みつつ、パンクよりのグランジアーティストのようにある種のナンセンス、荒唐無稽な感じになるように仕上げている…感じです。Bathroom Sketchesの中でも、伏せ字や言葉を置き換えるなど意図的な改変が最も多い曲。

 

3.水槽

僕と森實のルーツでもある愛媛(中でも特に東予地方)の海沿い(燧灘)の情景を思いながら作りました。この曲だけアルバムの中では唯一、編曲を僕と森實の2人で行っています。瀬戸内の海沿いの景色は本当に好きで曲にしたかったので、それの第一弾です。

Bathroom Sketchesとしてはあまりない、歌詞が少しストーリーのようになっている曲で1番と2番の間で、物語として時間が経っています。1番はこれまたBathroom Sketchesとしては珍しい10代、高校生くらいの年齢の時を描いています。そんな年代での愛媛の線路沿い、海沿いの景色(モチーフ的にはもちろん予讃線沿いで、もっと言えば伊予桜井駅〜壬生川駅あたりまで)から、刹那に絡み合い縺れ合って、溺れるように、切り刻まれるように過ごした複雑で少し残酷な青い時を想像して書かれました。またフェリーの描写などは、個人的に最も好きな港の今治港をモチーフにしてます(でも東予港や新居浜港っぽい感じも少し出てるかも…)。2番ではそんな時を大人になってから郷愁のように回想しつつ、そこに戻るのでなく、それを抱えて行くといったような感じに。

改めて聴いたらファズギターが物凄い音出してますね。笑 英米のインディーロック的に僕のギターはファズでギャンギャンに歪ませて、そこに潮風の匂いのする森實のギターがのっかる、という感じのサウンドでしょうか。

歌詞は「マイスリースター」同様に、(愛媛の海云々を抜きにしても「関係」を表している曲として)特にストンとはまって気に入っていて、森實と松永が入ってからのバンドの新しい側面が見つかった気がしました。個人的には1番の「水の中」と2番の「水の外」、その前後サビでの関係や情景の対比が気に入っています。

 

4.Into Your Bathroom

Bathroom Sketchesで最初に作られたインスト楽曲。オリジナルメンバーの編成だった頃の最後期あたり…に作られた曲だった気がします。

90'sのシューゲイズの…マイブラやRideほど(今では)超有名にはならなかったけれど、素晴らしい魅力がつまっていたバンド…Pale SaintsだったりAdorableだったりのまどろみの中で鳴り響く轟音の感覚と北欧のMewやスコットランドのMogwaiみたいなサウンドスケープにしたいなと思ってました。レコーディングの際に、エンジニアの高倉さん(獣ヶ原)のアイデアで、彼によるオルガンの音がのっています。ライヴの際はもちろん、スタジオに入る時でも毎回1曲目に演奏しています。

 

5.Whirlpool

今作の中で最も長く、ある種の濃密さがある(と個人的には思っている)曲。個人的には裏リードトラック的な位置づけだと思っていた…ら、先行配信曲に抜擢されてしまい、なかなか普通にリードトラック的な色が濃くなったような。。

ドラムを機械的に(しかしドラムマシンでなく生で)鳴らし、ベースがうねる、それを覆うように神経症のようなギターがのっている…この曲では僕と森實がギターの役割を交代していて、森實がバッキングギターを、僕がリードギターを弾いています。Joy DivisionやThe Cure、Bauhausなどの70's〜80'sポストパンクでゴス色の強いバンドのサウンドを意識的に取り入れました。

今作では最も早くミックスが進んだ曲でエンジニアの高倉さんのアイデアで僕のヴォーカルは元のVoトラックを複製してピッチを意図的にいじったトラックを幾つか重ねています。それもまたポストパンクな陰りをみせているように思います。

歌詞は最期の時について。最も参考文献が多く、書ききるのに1ヶ月ほどかかったので、作詞的には最も時間がかかりました。「カリフォルニアン・ロケット」より明確に哲学用語や文学作品からの引用を織り交ぜつつ、「響宴の中での生活」に対しての倦怠と厭世、発作、諦観などを書いています。この曲は今作の中で、最も「個」と他者との「関係」が薄い様に見えて、実はパースペクティヴとして、最も「近い」、近すぎるがゆえの関係の不安発作のようなものが出ているように思います。他者という恐怖、(遠景化された)関係の恐怖。言葉遊びも用いています。2番サビ〜間奏が終わり、ラストサビに至るまでのヴァース部分で一気にまくし立てるように言葉がどんどん重なっていって、どれも失調気味で昏倒していくような様が個人的には気に入っています。

またタイトルはChapterhouseの名盤『Whirlpool』を思わせるようで、全く無関係です。僕がアイスランドに旅行した時にWHIRLPOOLとどでかくペイントされた謎の工場(??)の廃墟があって、それが脳裏に浮かんで採用しました。

 

6.Affairs

森實が加入して完成した曲で今作の中でも最もポップな曲かな、と。色彩豊かなギターとシンセの響きがポップセンスを引き立てています。初の全編丁寧語で紡がれた詞であることも特徴的です。歌詞中の「北山」は京都のシックな雑貨屋やカフェ、植物園が並ぶ通りです。「水槽」でも同様ですが、自分と重なりそうでギリギリ重なりきらないという歌詞は書いていて少し妄想ちっくになっています。普通の関係ではなく、特別になりきれない、それをハッキリ言葉にしたら崩れてしまう間柄を歌った歌で、その関係にお互いに倦怠の色が見えつつもどこかでどうしても惹かれ合ってしまう…といった模様を歌っています(これは森實が加入したことから着想を得ました)。

 

7.天使の噛み傷

結成した当時からあった曲で、今アルバムの中でも古い曲です。意図的にベタにグランジっぽい感覚を出した曲です。曲自体は山田が僕に「全編パワーコード主体の曲がほしい」と要望を出したことから、あえて当時のメンバーの自分以外、誰も通過してこなかったメタルよりのグランジバンドを想定したリフを作りました。負の連鎖をむしろ開き直って受け入れ、マゾヒスティックに埋没する歪んだ依存心とナルシシズム、そして泥水に潜っていくような閉じた二人の関係を歌っています。

 

8.Kinky Ape

今アルバムで最もコンセプチュアルでありながら最もやりたい放題を狙って制作されました。それまで、あまり作ろうと思ってこなかったダンスソングです。この曲は山田ではなく僕がベースを弾いており、3人で制作されました。タイトルのように、マッドチェスターの狂騒とグランジのエッジを持たせている…予定でしたが、途中からソロでの僕の経験を活かしてシンセサイザーを飛び道具としてどんどん重ねていく内に間奏のフリーセッションのような部分もできました。聴き返すと全体の曲構成だとかがかなりパラノイックというか、幻聴のような妄想のような、感情的な"不調"が自分でも意図しない形で出たなぁと思います。間奏のところでは締切に追われて即興で書いた詩(詞でなく)を二倍速した後に逆回転するようエンジニアさんにオーダーしたのですが、バックでメンバー男性陣の笑い声をコラージュしている感じが本来の意図を超えて狂ったように聴こえるなぁと思います。アウトロの笑い声が右左と交差して、女声になっていって、どんどん歪んでいくのは僕の発案でやってみましたが、なかなか実験的ながらうまく曲に落とし込めたかなぁと思います。なかなかどうして閉塞感のある偏執的な曲になっていて気に入っています。

 

9.さよなら

もともとフェアウェルソングって苦手なんです。感傷的にすぎるし、色々思い出されるし、自分が書こうとはまず思わなくなった。その上で、書いた曲です。サウンドの方は、サブギターとしてサイクロンを導入したことによりアームプレイができるようになって面白くなって適当に弾いていたものからリフが出来上がりそこから広げていった曲で、00年代半ばのいわゆる「下北系」ムーブメントのような曲調になるようにしました。今「さよなら」という言葉をテーマにすれば、確実に違う曲になると思います。個人的には、その新しい「さよなら」の在り方をテーマに曲を書いてみようと思っています。

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